2012年01月23日
「ついにこの時が来たか…」
心を落ち着かせようと何度も深呼吸しながらも、原稿を書く指が震えて止まらない。
正午の番組、ワイドスクランブルは特番体制に入り、「早くスタンバイしてくれー!」と怒鳴り声が飛び交う。急かされながら北京支局の中継場所に立つ。何分喋るかなんて、打ち合わせにもないし、頭にもない。とにかく無我夢中。中継を終えるとまた中継。金正日総書記死去の発表があった2011年12月19日の正午はそんな感じでした。昨年末はこのニュースへの中国の反応をバタバタ取材するうちに、いつの間にか年が明けてしまいました。
本年もどうぞ宜しくお願いします。
今年こそは世界が落ち着いた一年に…と祈りたいところですが、ことしは中国共産党トップの交代あり、ロシア・フランス・韓国・アメリカ大統領選ありとイベント盛りだくさん。その上、金正日総書記死去という不安定要素が加わってしまいました。ヨーロッパの経済問題も引き続き心配です。非常に予測しにくい一年です。ですが、中国にとってどのような一年になるかを予測してみましょう。

- 「年越しの池上彰特番でも今年の中国について予測しました」
実は一年前の北京通信で、私は2011年の中国を予想していました。そこで私は「国内問題が最優先で、外交は安全運転でいく」と書きました。
結果はどうだったでしょうか。まず国内問題。2月ころから「中国版ジャスミン革命」と銘打ったデモ活動の呼びかけがインターネットで行われ、中国指導部は危機感を強めました。公安警察の現場の取り締まりはこれまでに見たことがないほど厳しいもので、海外メディアの記者は警察に呼び出され取材しないように忠告を受けました。そのころ私のアパートに「居留証を見せろ」と警察がやってきました。警察が去った直後、私の部屋には嫌がらせのように外からレーザーポインターの光が当てられ、妻が怯えました。
このデモの呼びかけはしばらくすると下火になりましたが、7月に温州の高速鉄道事故があり40人もの死者を出すと、国民の批判は鉄道省に集中し、「成長一辺倒で人命を軽視する政府」への批判が高まりました。党宣伝部が報道を規制する通達を出しましたが、それに怒った中国人記者がなんと、その通達文を写真に撮ってミニブログに掲載。火に油を注ぐように国民の怒りが高まりました。スマートフォンの爆発的普及により「いつでもどこでも」情報がインターネットのミニブログに掲載されるようになり、地方政府が証拠隠滅する前に事実が明らかになるような事件、事故がいくつもありました。これは私にとって衝撃的でした。メディアの変革に中国指導部がついていけず右往左往する様子がリアルに伝わってきたからです。「Facebookもtwitterも禁止にして海外の民主化勢力の活動を防ぎ、中国が作って管理するSNSなら大丈夫だろう」。恐らくそんな感じで始まった微博(ミニブログ・中国版twitter)が、スマートフォンの普及でさらに大きな影響力を持ちました。
経済面では、インフレとの戦いでした。2011年中国の一番の重要課題と言ってもいいでしょう。対策の結果、最近になってようやく物価が落ち着いてきて、不動産価格も下がっていますが、まだまだ低所得者や中産階級にとって満足のゆく物価ではありません。
このように国内問題に全力を注いだ中国でしたが、外交面では安全運転でした。南シナ海問題ではASEAN諸国との対話に努め、この問題を東アジアサミットでアメリカが取り上げようとしてもヒステリックになることはありませんでした。日本では東日本大震災がおきると、素早く日本へのお見舞い、支援を行い、2010年の尖閣問題で傷ついた日中関係の回復に努めました。何よりこの一年、中国外務省の定例会見で「中国は強烈な不満を表明する」という、かつての中国の強硬的な常套句がめっきり減りました。日本が交渉参加を表明したTPPをアメリカ主導の安全保障的な意味合いの強い対中包囲網と理解しながらも、胡錦濤主席はAPECでTPPに理解を示し将来的な中国の参加の可能性についても発言しました。その一方で日中韓FTA交渉を強く日韓に働きかけています。衝突が目立った2010年の反省を活かし、したたかになった印象があります。

- 「どうなる2012年の中国」
指導者の世代交代が行われる中国は、今年も外交面での安全運転を続け、なるべく不安定要素を減らすため対話の道を表向きは重視するとみられます。ただ、国民が不満を持つような外交問題が起きた場合、弱腰な対応をとると批判を受け党人事に影響する可能性があるので、ポイントポイントで強硬になる可能性は2011年より高いといえます。その点で台湾の国民党の馬英九氏が1月の総統選で再選したことは好材料です。ハレーションを避ける一方で、力を蓄えることに集中すると思われます。特に、引き続きサイバーや宇宙開発、海洋政策などの軍事面での実力強化を図っていくことになるでしょう。
引き続き重点は国内の安定確保におかれるでしょう。国民からの拍手喝采の中、指導者のバトンタッチを行うために、経済成長もご祝儀として少し「下駄をはかす」ために景気刺激策を行うとみられます。すでに金融規制は緩和に向けて動き出しています。しかし、国民の不満を高めないようインフレを抑制しながら、特に食料価格や不動産価格は抑えながらですので、非常に難しい舵取りになります。最大の輸出国であるEUの経済減速も足かせとなっています。
社会問題では暴動やデモに警戒をさらにギュッと強め、昨年指導部を右往左往させたネット世論も規制を強めるとみられます。監視社会化が進むでしょう。すでに北京など一部の地域で、ミニブログは実名登録制となっています。ただ、規制を強めてもITの進化は今後も当局の予想を上回る社会の変化を生み出していくでしょう。また規制するだけでなく、ミニブログにアカウントを開設して、情報発信する地方政府も出てきています。
経済改革に遅れをとる政治改革ですが、指導者交代の年にあえて既得権益層からバッシングを受ける政治改革を行うとは思えません。注目点は現在9人いる中国共産党トップの政治局常務委員の数が党大会で変わるかです。ポストを増やせば政治改革から後退、減らせば改革に意欲的、とみることができると思います。とはいえ具体的な政治改革は、やるとしても習近平氏が実権をしっかり握ってからとなるでしょうし、問題は先送りされるとみられます。
これら国内問題の解消がうまくいかず、国民の不満が高まった場合、そのときはじめて中国が外交で強硬手段に出る可能性があります。国民の不満を外に向けさせるには、ナショナリズムを煽ることが一番有効な手段だからです。さらにこの強硬姿勢を煽りかねない変数とも言える不安定要素が2つあります。
イランの核開発問題と、北朝鮮の権力継承問題です。
経済危機は中国の存在感を際立たせるという一面もありますが、この2つの問題はやっかいです。
イラン問題はアメリカが、北朝鮮問題は中国が一歩も引けないもの、というのがここでポイントになってきます。イランに核兵器を持たせるとイスラエルの脅威となり、アメリカ国内外のユダヤ人からオバマ政権は批判を受け、大統領選に響く。また北朝鮮の内部が崩壊する事態になれば、国境を接する中国は大きく動揺し、場合によってはアメリカの影響下にある国が隣国になりかねないのです。正直なところ、アメリカは北朝鮮問題で努力しても大統領選ではイラン問題ほど票に結びつかない。このため今年、アメリカは北朝鮮問題ではこれまでよりも中国に役割を任せ、イラン問題に集中すると想像できます。このため、中国は北朝鮮との経済の結びつきをさらに加速させ、北朝鮮の面子に配慮しながらもより強い影響力を持とうとするでしょう。
外れたら、ごめんなさいということで…。
では、平穏な一年を祈って。