【うきはドライブ】1日1組限定の宿+喫茶!?築100年の屋敷でサウナ&クリームソーダ&カレーを満喫『旅する喫茶 うきは』(福岡・うきは市)【まち歩き】

白壁の通りを歩いていると、その一軒はふいに現れる。看板は控えめで、うっかりすると通り過ぎてしまう。けれど一度くぐると、光の入り方も、床のきしみ方も、外の通りとはまるで違う時間が流れている。
うきは市吉井町の『旅する喫茶 うきは』。

東京・高円寺の喫茶店に続く二軒目の拠点で、こちらは一日一組限定の宿だ。
オーナーの恒川寛弥さんに、この家にたどり着くまでの話を聞いた。

■泊まれる喫茶店

ここは、一日一組限定の宿に喫茶を併設した「泊まれる喫茶店」である。宿として泊まれる日があり、クリームソーダを飲みに立ち寄れる日もある。
チェックインの時間からは、建物の二階と浴室が、その一組の専有スペースになる。部屋は三つ。洋館めいた古い喫茶店のような喫茶室、風呂上がりに畳で寛げる和室、そして広い縁側のついた"離れ"のような寝室。和室と寝室をつなぐ外廊下からは、中庭と建物全体の造りが見渡せる。定員は最大六名だから、友人同士でも、家族でも、ひとりでも構わない。

和室から階段を降りると浴室がある。汲み上げた地下水の、やわらかい湯。サウナと、地下水の水風呂と、中庭の屋外休憩スペースまでが続いている。
部屋にはクリームソーダ作り体験セットが用意されていて、風呂上がりでも夜中でも、自分の手で一杯作ることができる。夜食用のレトルトチキンカレーもある。緊急時を除いてスタッフが部屋に来ることはないので、あとは思い思いに過ごすだけだ。

一階の喫茶で待っているのは、地産の野菜やフルーツを使ったスパイスカレーと、季節のクリームソーダ。夏には桃を使った一杯もあった。
ただし喫茶が開くのは不定期で、毎日いつでも飲めるわけではないので、訪ねる前に、うきは店のSNSで営業日カレンダーを確認してほしい。

■残したもの、入れ替えたもの

築100年を超える家である。訪れた人の感想には、きれいに手が入っている場所と、あえてそのままにしてあるように見える場所が混ざっている、とよく書かれる。その線引きはどこにあるのか。

「明確な基準っていうのは、ないんですけど」

そう前置きしてから、恒川さんは続けた。昔ながらの造りそのものがこの家に惹かれた理由だったので、そこは残す。一方で水回りのように清潔であるべき部分は、完全に入れ替えている。先ほどの風呂とサウナの一角も、もとはただの部屋だったという。
中庭を囲む外廊下、大正らしいガラス窓から差し込む光。そして壁には、いくつかの絵が掛かっている。かつてここに絵を描く人が住んでいたと伝わっているものの、作者はわかっていない。それでもその絵は、今も壁に掛けられたままになっている。
この家が積んできた時間が、誰にも消されずにここにある。それがたぶん、部屋の空気を作っているのだと思う。


■なぜ、この家だったのか

恒川さんは愛知県の出身だ。

「愛知って喫茶店の文化がすごいんです。モーニングとか、もう生活の一部みたいな状態で。僕も小さい頃から、朝は普通に喫茶店にご飯を食べに行くのが当たり前でした」

その記憶が、ずっと残っていた。
けれど仕事にしたのは喫茶ではなく、ライブ衣装の制作だった。今も続けているその本業の合間、休憩の時間になんとなく作りはじめたのがクリームソーダで、自分でも作れるらしいと知って手を動かしてみては、SNSに載せる。ただそれだけのことだったという。

ところが見てくれる人がどんどん増え、やがて飲んでみたい、食べてみたいという声が届くようになった。とはいえ店を構えるとなると話は別で、飲食の経験があっても、いきなり自分の店を持つのは簡単ではない。そこで出てきた発想が、少し変わっていた。

「だったら、見てくださっているフォロワーさんに会いに行けばいいんじゃないか、と」

修行も兼ねて各地を回りながら店を開く。名前の通り、旅をしながら開く喫茶店というわけである。東京で開いていたカレーの会では、のちにカレーを担当することになるメンバーとも出会い、一人ではできないことが少しずつできるようになっていった。
そして福岡に二軒目を、と決めた。ただし、うきはを知る前のことだった。

「最初は本当に、うきはっていう名前自体を知らなかったんです」

物件も場所も探し続けたがなかなか見つからず、そんなときにこの家に行き当たった。とりあえず行ってみよう、くらいの気持ちで足を運んだのだという。

「行ったときに、めちゃくちゃいいな、って。それで決まりました」

当時は長く人の住んでいない家で、それをちょこちょこと整えながら店の形にしていった。恒川さん自身はまだ東京の仕事を抱えていたため、立ち上げを担ったのは東京から移住したスタッフだったという。恒川さんがうきはに暮らしはじめたのは、まだ一年ちょっと前のことになる。


■歩いて、一日が終わる町

この宿のいいところは、扉の外にもある。
吉井町は驚くほどコンパクトで、パン屋も喫茶店も雑貨の店も、白壁の通りを中心に徒歩圏にぎゅっと集まっている。車を停めたら、あとはもう歩くだけでいい。気になった店に入って、また少し歩いて、次の店に入る。それだけで一日が終わってしまう。
理由は町の成り立ちにあるという。吉井は昔から商業の町で、ここから奥に入ると農村になる。作る場所と売る場所の住み分けがそのまま今に続いているから、店が一箇所に集まっているというわけだ。
しかも、その通りに新しい店が増えている。恒川さんのように、よそから来て根を張った人たちの店である。

「移り住んで店をやっている方が、この町には多いんです」

そうやって文化的なものが長い時間をかけて醸成されてきたから、今があるのではないか——それが恒川さんの見立てだ。市役所の担当者と直接話ができる距離の近さにも、何度も助けられてきたという。
やりたいことを持っている人が、そのまま動ける。だから町のほうが、少しずつ面白くなっていく。宿を出て一歩踏み出せば、その途中経過を歩いて見て回れる。

■旅は、まだ続いている

三年が経って、うきははどうなったのか。

「思い描いていた拠点になりました」

そう言い切ったうえで、まだ現在進行形だとも付け加える。実は、うきは市内でもう一軒を検討しているのだという。

東京の店は、いわば玄関口として作った。そこで知って、じゃあ次はここへ行ってみよう。そしてまた次へ。お客さん自身が旅をしていくような感覚になってくれたらいい、と恒川さんは言う。旅する喫茶の「旅」は、作り手だけのものではないらしい。
白壁の通りに、100年前から立っている家がある。そこに、町の名前も知らずにやってきた人がいて、今は一日一組のためだけにその家を開けている。
今日この家に灯りがついているとしたら、それは誰か一組のためだ。次はそれが、あなたかもしれない。


なお、来月には恒川さんが実行委員として関わる日台交流イベント「台浮縁日」が、うきは市内で開かれる。
台湾・高雄市とうきは市の交流から生まれ、日本と台湾で年に一回ずつ開催してきたもので、うきはでの開催は9月12日(土)と13日(日)の二日間、会場はにじの耳納の里だ。昨年は台湾25店舗と日本67店舗が並び、来場者は二万人を超えた。今年は台湾からの出店が50店舗規模に広がる予定だという。町がいちばん賑わう日になりそうだから、あわせてうきはに足を運んでみてほしい。

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■『旅する喫茶 うきは』
住所:福岡県うきは市吉井町1410-10
定休日:不定(営業日はSNSの営業日カレンダーを確認)
予約:宿泊予約はオンラインのみ。宿泊料金は公式サイトの予約ページを確認
Web https://tabisurukissa-ukiha.com/
Instagram @tabisurukissa_ukiha
https://www.instagram.com/tabisurukissa_ukiha/reels/

業態:1日1組限定の宿+喫茶
宿泊定員:最大6名(専有は2階の全室と浴室。1階の喫茶スペースは専有ではなく、一棟貸しではありません)
客室: 喫茶室・和室・寝室の3部屋
設備: 地下水のお風呂、サウナ、水風呂、中庭の屋外休憩スペース/無料Wi-Fi、エアコン、冷蔵庫、電子レンジ、電気ポット、空気清浄機・加湿器、アメニティ一式/全館禁煙・火器使用禁止
料金:素泊まり1名利用 37,000円〜(宿泊税200円込)※人数・プランにより変動
チェックイン/アウト:16:00〜19:00/〜10:00
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※情報は2026年8月時点のものです。営業形態・営業時間は変更になる場合があります。最新情報は公式Instagram等でご確認ください。

■ 外部リンク

Instagram @tabisurukissa_ukiha

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